HG−07

 

『赤い帽子の男』 エルヴェ・ギベール

堀江敏幸・訳、集英社、1,600円

 

L−010

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめは、喉の手術を受ける場面からスタートする。喉にできた結節腫を取り除く手術だ。これがリンパ節腫ならもう病状は絶望的だ、画家ヤニスのいるコルフ島で自殺しよう、とHGは思う。けれどそれはリンパ節腫ではない。そしてHGは「これ以上エイズの話なんか耳に入れたくもない」と宣言し、コルフ島に旅立つ。

 

「絵画のコレクションはまた、ぼくが生き続けるという幻想をかきたて、維持するものだ」

「それは明らかに、まだ長いあいだこうした絵を楽しむという幻想を維持する方法なのだ」

 

『憐れみの処方箋』に書かれたこの言葉は、予告だったのかもしれない。

これは絵画をめぐる物語である。

 

 

ロシアで行方不明になった兄のかわりに画廊を営むレナ。

マフィアがらみの大量の贋作に悩まされる画家ヤニス。

ジャーナリストとしてバルテュスを強引に取材するHG。

ヤニスの肖像画のモデルになるHG。

画商のふりをして目当ての絵の値段を交渉するHG。

 

これらのエピソードは互いに交わることなく平行して進んでいく。

そして、どの物語にも嘘の匂いがつきまとい、どこまでが真実なのか、どこまでが虚偽なのかはっきりとはわからない。

 

ちょうど、どの絵画が真作で、どの絵画が贋作なのかわからないコレクションのように。

 

 

HGの絵画を選ぶ基準は、「一目惚れ」だ。

バスの窓から画廊の中に見える絵画を一瞬で見初める眼力。

 

「ひと目で夢中になるような瞬間が、はるか遠くからぼくの目をぴしりと打ちつけるのだ」

 

そのとき、作品が真作なのか贋作なのかは、たぶん関係ない。

 

 

けれどいつか、愛はさめる。

 

画家のヤニスはHGに言う。

 

「いまのところ、きみはぼくのことを好きでいてくれる。でもじきに嫌になるだろうし、ぼくの絵に対する愛着も消えうせて、ぼくが描いたきみの肖像画も、きみに対するぼくの友情も、どうでもよくなってしまうんだよ」

 

こうして、書かれたものだけが残される。

 

 

最後に、アフリカ旅行に出たHGは、その旅の原稿を失う。

 

「いつか、別のやり方で、別の本の中に、叙事詩と言ってもよかった今回のアフリカ旅行を書き直すことがあるのだろうか」

 

そして、次の作品、『楽園』にはアフリカ旅行がえがかれることになる。

これは予告なのだ。次の作品の。

 

まだ書くことがあるから、HGは自ら命を絶つことなく生きている――いまは、まだ。

 

「またしても、ぼくはこの本を、これまでに書き上げたすべての本と同様、こう呼ぶことができるだろう。『未完成』と」

 

終わらない小説――未完成――は、「永遠」を目指しているのかもしれない。

 

 

April 6, 2001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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