HG−08 |
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『サイトメガロウイルス』 エルヴェ・ギベール 黒木實・訳、松籟社、1,500円 |
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L−012 |
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『楽園』を執筆するためのボラボラ島への旅から戻ったHGは、サイトメガロウイルスに感染していることが判明し、パリ郊外の病院に入院することになる。 消毒されていない病室、頼んだものを用意してくれない看護婦、隣室のうめき声、失明の危機にさらされた片目。 つい二週間前まではボラボラ島の青い海の上をヘリコプターで飛んでいたというのに……。 「病院、それは地獄だ」 これはHGの最後の作品、入院日記である。 書かれていることの大半は病院でさらされる拷問のような仕打ち、病状が進行することへの不安、死の恐怖……で占められている。 けれどHGの他の作品と同様に、その視線はどこか他人のことのように冷めている。 HGは書くことでこの冷めた視線を獲得し、そのことで何とか自分を支えていたのかもしれない。 時計を見ることも困難になった中、それでもHGは日記を書き、本を読む。 「この生涯、十分本を読んだかな、十分書いただろうか?」 一年に二冊のハイペースで書きつづけたHGの中に、次の小説の構想はあったのだろうか? それともなかったのだろうか? 少なくともこの日記の中には見当たらない。 「僕はこの入院日記が有益になるのか有害になるのか分からない。有益な作家は幾人かいると思う。ハムスン、ワルサー、ハントケ、逆説的だがベルンハルトも文才を活かしきる点でこちら、一方有害なのは、もちろんサド、ドストエフスキーも? 今の僕としては前者のカテゴリーに属したい」 失明の危機にさらされながら書かれたこの日記は、はたして有益なのだろうか? そもそも有益な作家とは、なんだろう? 「僕たちの間には青春の日々があり、失い、エロティスムがあったが、それも失せてしまった。残ったのは、かつてなかったほどの大きな愛だ」 最愛のひと、Tに向けられたこの言葉は、HGが最後にたどり着いた場所を示しているような気がする。 そこは、そんなに悪いところじゃない。 「退院する。HADイコール自宅療養。断固断るべきはラレオス(看護婦が使う省略語で再入院)」 怖いのは病ではなく……病院のほうかもしれない。 April 19, 2001 |
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