HG−03

 

『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』

エルヴェ・ギベール

佐宗鈴夫・訳、集英社、1,600円(文庫版580円)

 

L−003

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品には、いくつもの喪失がある。

 

まず、ミュージル(ミッシェル・フーコー)の死。

そして、女優マリーン(イザベル・アジャーニ)の裏切り。

最後に、医師であり、友人でもあるビルの裏切り。

 

この本が出版される前にも、フーコーの死がエイズによるものではないかといううわさは何度も取りざたされていたが、遺族が懸命に否定していたらしい。まるでエイズによる死が恥ずべきものであるかのように。

親しいものたちはその死に際して、面会することも許されなくなる。親族ではないから、という理由で。そして、唯一面接を許されていた同居人は、二十年以上も一緒に暮らしていたのに相続権を手にすることもできず、その死は奪い去られてしまう。

 

マリーンはHGの脚本した映画の出演を、一度承諾したのに裏切った。動き出していたその計画は、おかげで資金がつき、駄目になってしまう。マリーンもHIVに感染しているといううわさが流れるが、それは真実ではないことがわかる。

 

ビルはアメリカで発見されたHIVの特効薬を手に入れてやると約束するのだが、その約束は反故にされる。そしてかわりに、別の若者にその恩恵を与える。

 

 

そしてHGを裏切ったマリーンやビルにではなく、ミュージルやHGのほうにHIVはやってくる。

 

ビルは、自分には特定の相手がいたからHIVにかからなくてすんだ、というような無神経なことを平気でHGの前で口にする。そしてそのことを非難すると、なにが悪いのかわからない、と言ってのける。

 

「ぼくは自分が人を愛していないことを知ってしまった。いや、ちがう。たしかに、愛してはいない。むしろ憎んでいる。すべては、憎しみ、ずっと以前からいだいているこの執念深い憎しみのせいだろう」

 

憎しみはウィルスのようにHGの文体をも襲い、それはトーマス・ベルンハルトのような文体に、永遠に続く呪詛のような文体に置き換えられてしまう。

 

もう、ここでは恋愛も欲望も、遠くに押しやられてしまっている。

それは過去の世界の出来事なのだ。

 

 

この裏切りと、フーコーのHIV感染を、同じ本の中で公表すればどうなるか、もちろんHGは十分承知していただろう。たとえ仮名にしようとも、親しい人にはだれがモデルなのかすぐにわかるのだから。しかもビルは訴訟することもできないだろう。それでは「わたしがモデルです! わたしが心無い卑劣な人間です」と自分から声をあげて宣伝するようなものだから。

それに、HGはすぐにこの世を去るのだから。

 

すべてを白日の下にさらすことで、HGはなにもかも清算しようとしたような気がする。

裏切りに対しては復讐を。

隠蔽された真実に対しては光を。

この本は憎しみの本だ。

 

 

そして同時に、この本はHIVに対する偏見と戦う本でもある。

HIVにかかるようなやつは、どうしようもないやつなのだ、という偏見と。

 

「同性愛者だけがかかるガンだなんて、まさか、できすぎた話で信じられんね。まったく滑稽だよ!」

と、ミュージルは言う。

もちろん、いまのわたしたちになら、これがまったくばかげたうわさなのだということがわかる。けれど同性愛者と麻薬中毒患者の病気だという誤った認識が、いまもHIV患者を苦しめている。

 

 

「みんなこの病気で死ぬんだ。ぼくも、きみも、ジュールも。ぼくたちが愛している者全員が」

 

 

これが対岸の火事だと、どうして言えるだろう? この、航空機時代に? いつ致命的な感染症が運ばれてくるかわからない、この時代に?

きっとこうしているいまも密林の奥地で、恐ろしい感染症がわたしたちを狙っている。

 

 

 

February 9, 2001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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