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『ヴァンサンに夢中』 エルヴェ・ギベール 佐宗鈴夫・訳、集英社、1,200円 |
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L−002 |
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これはエルヴェ・ギベール(HG)が、『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』でHIV感染をカミング・アウトし、有名作家の仲間入りをする直前の作品だ。 冒頭、「ぼく」の恋人、ヴァンサンは酔って四階からパラシュート降下のまねをして飛び降りて死ぬ。そして「ぼく」は日記の中のヴァンサンについての記述を過去に向かってたどっていく。 物語は現在から過去に向かっていく。そして記述はいつも、現在形に近い。(この構成は『楽園』に似ている) すべての記述が現在形で、すべてのできごとの因果関係がはっきりしないまま立ち現れる。因果関係が見えなければ、陳腐な言いわけも存在しない。過去に向かってさかのぼっていけば、最後に待ち受ける結末もない。到達すべき目的もない。 そこには揺れ動く感情だけが散りばめられている。 「いつになったら、ぼくは彼をメニューからはずせるだろうか、この駄目な愚か者を?」 「彼は結局、『あんたを傷つけることは絶対にできない』と言ってくれたのだ。ぼくにはそんな気がする」 形式的な物語を作ってしまえば、そのパターンは限られてしまう。かならず七時十八分にヒーローに変身する子供向け番組のように、まるでそれ以外の解決法がこの世に存在しないかのように、あるいはそんな解決法ですべてが解決してしまうかのように、世界は単純化されてしまう。 単純な世界になど興味はない。もっと複雑なもの。もっと些細なこと。そこにこそ真理が宿っている。 「この日記に書きとめられたヴァンサンのこうしたほとんどすべてのエピソードには、どこかありふれたところ、大切なものとされながら、どこかくだらないところがある」 すべてが日記からできているとHGが語るこの小説は、一方的で勝手な願望によって書かれたロマンス小説やポルノ小説とは違い、欲望について書かれているのに、支配については書かれていない。 そこには動かしがたい現実がある。ヴァンサンにはヴァンサンの都合があるのだ。 「相手をむりやり同じ気持ちにさせようとしても、それは不可能だ、とベルナールは言う」 些細な行き違い、少しずれた欲望。 この世界では、「ぼく」もヴァンサンも、お互いに相手を堕落させる存在らしい。ヴァンサンは「ぼく」を幸福にしてくれるが、破滅をももたらす。すでにHIVの影は色濃く反映されていて、この作品の中ではそれは、ヴァンサンがもたらす悪のひとつだ。 友人のミシェル(フーコー)はエイズでこの世を去っている。 それでも――「ぼく」はヴァンサンに執着する。 「(いかにヴァンサンを愛しているか。この胸を切りひらいて、いつでも彼の足元にぼくの心臓を差しだすことができる)」 この作品のあと、HGはHIV感染をカミング・アウトし、作品のテーマ、文体ともに大きく変化することになる。 もはや恋愛はその世界の中心にはない。 January 31, 2001 |
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